オランダ、まさかの直前黒星——アルジェリア戦で見えた世界7位の死角と日本がつけ入る隙
W杯開幕直前の6月3日、日本の初戦の相手・オランダがホームのロッテルダムでアルジェリアに0-1で敗れた。クーマン監督自身が「ウェイクアップコール(警鐘)だ」と認める黒星である。世界7位の強豪に何が起きているのか。直前テストマッチの内容を細かく整理し、6月15日の日本戦への示唆を読み解く。
アルジェリア戦の結果——「支配したのに負けた」90分
6月3日、ロッテルダムのデ・カイプで行われたアルジェリア戦の結果は0-1。この試合のゴール期待値(xG)はオランダ2.20に対してアルジェリア0.48であり、シュートチャンスの質と量でオランダが4倍以上の差をつけていた。立ち上がりの25分は試合を完全に支配し、再三の決定機を作ったものの、1点が遠いまま試合は膠着へ向かう。そして86分、アルジェリアのハジ・ムッサの一撃がホームのデ・カイプを凍りつかせた。
「支配したのに負けた」という展開は、W杯本番で強豪が格下と当たるときに最も陥りやすい負けパターンだ。オランダはそれを本大会の2週間前に実演してしまった。日本にとって、これほど参考になる敗戦はない。なお、オランダはこのあと6月9日にニューヨークでウズベキスタンとの最終テストマッチを残しており、その見方は後の節で触れる。
布陣とスタメン——4-2-3-1、顔ぶれは超一級
アルジェリア戦のオランダは4-2-3-1で臨んだ。
- GK:バルト・フェルブルッヘン
- 右SB:マッツ・ウィーファー
- CB:ヤン・パウル・ファン・ヘッケ、フィルジル・ファン・ダイク
- 左SB:ミッキー・ファン・デ・フェン
- ダブルボランチ:フレンキー・デ・ヨング、ライアン・フラフェンベルフ
- 右MF:ドニエル・マレン
- トップ下:ティジャニ・ラインデルス
- 左MF:コーディ・ガクポ
- 1トップ:ブライアン・ブロービー
ファン・ダイクを軸にした最終ライン、デ・ヨングとフラフェンベルフで組む中盤、ガクポにラインデルスと、名前だけ見れば文句なしの世界トップクラスだ。プレミアリーグとラ・リーガの主力級がずらりと並ぶ陣容は、グループFで頭ひとつ抜けている。特筆すべきは中盤で、3月の負傷から復帰したデ・ヨングがフル稼働できる状態に戻り、フラフェンベルフとの併用が形になってきた。ボールを握って試合を進めるオランダの生命線は健在と見るべきだろう。一方で最終ラインには後述する「台所事情」があり、ファン・ヘッケとファン・デ・フェンの起用は選択というより必然に近い側面がある。
注目選手の出来栄え——「決定力」という古典的な病
アルジェリア戦で個々の選手はどう映ったか。主要メンバーの評価を整理する。
- コーディ・ガクポ(リバプール):攻撃では存在感を示したが、決定的な仕事には至らず81分に交代。地元メディアの採点も平凡で、エースとしては不完全燃焼の90分だった。
- ドニエル・マレン:この試合最大の戦犯として現地メディアの批判を集めた。再三の決定機を外し、「優しすぎる(too nice)」とまで書かれる始末。日本戦で先発した場合、彼の決定力が試合の行方を直接左右する。
- フレンキー・デ・ヨング(バルセロナ):負傷から復帰し、中盤でゲームをコントロール。コンディションは上向きで、この試合数少ないポジティブ材料だった。
- ブライアン・ブロービー:1トップとして起用されたがゴールという結果は残せず。オランダの「9番問題」は未解決のままだ。
チャンスは作れる。しかし仕留め切れない——アルジェリア戦で露呈したのは、オランダが長年抱えてきた古典的な課題だった。
負傷・離脱情報——実は台所事情が苦しい
オランダの不安材料は結果だけではない。主力級の離脱が相次いでいる。
- シャビ・シモンズ:4月に膝の大怪我(ACL断裂)。W杯全試合欠場が確定。
- マタイス・デ・リフト:背中の手術のため離脱。昨年11月下旬から実戦から遠ざかっている。
- ステファン・デ・フライ:シーズン最終盤に負傷し、離脱。
攻撃の創造性を担うシモンズの不在は特に大きく、トップ下のタレント層を直撃している。さらにCBはデ・リフトとデ・フライを同時に欠き、ファン・ダイクへの依存度が一段と高まっている状態だ。先述の通り、アルジェリア戦のCB起用はほぼ「残った選手」での編成だった。選手層の厚いオランダといえども「ベストメンバーではない」状態で本大会に入る——これは押さえておきたい事実である。
監督コメントと現地の評価——「パニックは不要、だが」
アルジェリア戦後のクーマン監督のコメントは以下の通りだ。
「絶対に負けは嫌いだ。勝てた試合だった。とはいえパニックになる必要はない。ただ、細かい部分を修正しなければいけない。ある意味ウェイクアップコールだ」
オランダメディアは「序盤25分は完璧だったのに失速した」「決定機を外しすぎる」と、内容と結果のギャップを指摘する論調が中心だった。チームの完成度そのものを疑う声は多くないが、「仕上げの一手」が見つからないままのチームに対する苛立ちは確実に積もりつつある。2022年カタール大会ベスト8の悔しさを晴らすべく「結果を出す大会」と位置づけているはずの2026年。その船出の直前に黒星で水を差された格好で、6月9日のウズベキスタン戦は「修正力」を示す場になる。
6月9日のウズベキスタン戦——日本戦前、最後のヒント
オランダは日本戦の6日前、ニューヨークでウズベキスタンと最後のテストマッチを行う。日本目線では、この試合が「直前のオランダ」を知る最後のサンプルだ。チェックすべき点は3つある。
- 決定力は改善したか。アルジェリア戦と同じく「支配して決め切れない」展開なら、課題は本物だ。
- スタメンの固定度。日本戦を見据えたベストメンバーで来るのか、ローテーションするのか。ここでクーマン監督の本大会プランが透ける。
- 1トップは誰か。ブロービー続投か、別の解か。「9番問題」の答えは日本の守備陣にとって最重要情報だ。
開催地がニューヨーク、つまり本大会の地・北米である。時差と移動を含めた「本番モード」への切り替えがどう出るかも、隠れた見どころになる。
日本との対戦史——0勝1分2敗、しかし悲観する差ではない
日本とオランダの過去の対戦成績は0勝1分2敗。2010年南アフリカW杯のグループリーグでは0-1で敗れ、唯一の引き分けは2013年の親善試合(2-2)だ。勝ったことはない相手だが、スコアはすべて1点差以内である。「歯が立たない相手」ではなく、「届きそうで届かなかった相手」というのが正確なところだろう。
2010年南アフリカ大会の対戦では、グループリーグ第2戦でスナイデルの一撃に沈んで0-1の敗北を喫した。しかし当時世界トップフォームだったオランダを相手に最後まで試合を壊さず戦い抜き、その大会で日本はデンマークを破ってグループを突破している。「オランダに最小失点で負けても突破はできる」——16年前の日本が、それを証明した。もちろん今回は「負けてもいい」試合ではない。現在のオランダは主力に離脱を抱え、直前に格下相手の黒星を喫した状態で初戦を迎える。過去3回の対戦と比べても付け入る余地は確実に大きく、「オランダ戦初勝点」は十分に現実的な目標だ。
日本戦(6月15日)への示唆——アルジェリアが見せた「勝ち筋」
初戦でオランダと戦う日本にとって、アルジェリア戦は最高の教材だ。アルジェリアが示した勝ち筋を4点に整理する。
- 支配されても崩れない。アルジェリアはxGで4倍以上の差をつけられながら、ブロックを保ち続けて0で耐えた。組織力で守る日本なら同じ耐え方ができる。
- ワンチャンスは必ず来る。86分の決勝点が示すように、攻め疲れたオランダの試合終盤には隙が生まれる。交代カードを攻撃に振れる日本の選手層は、この展開でこそ生きる。
- 決定力不足は現在進行形。マレンら前線が仕留め損ねてくれる間、失点0の時間を伸ばせるかが勝負だ。
- セットプレーを侮らない。ファン・ダイクを筆頭に高さは世界最高クラスで、流れの中で耐えてもCKとFKの一発には最大限の警戒が必要だ。
それでも「強みは強み」——正しく恐れるために
付け入る隙ばかりを並べたが、過大な楽観は禁物だ。デ・ヨングとフラフェンベルフの中盤は、プレスを真正面からかけても簡単には引っかからない。日本が前から行くなら、ボールの奪いどころを限定する設計が不可欠だ。そしてファン・ダイクがいる限り、単純なハイボールやアバウトなクロスはほぼ無効で、日本の攻撃は「速く、地上で、背後へ」が大前提になる。
xG2.20という数字は裏を返せば「アルジェリア相手に決定機を量産する力がある」ということでもある。同じ量の決定機を日本相手に作られ、マレンが決め始めたら——それが起こりうるのもまた、オランダという相手だ。
展開別シナリオ——3つの「もしも」
- 日本が先制したら:金星が現実圏に入る。焦ったオランダは前がかりになり、カウンターのスペースが生まれる好循環へ。アルジェリアが86分まで我慢して仕留めた絵を、より早い時間に描ければ理想だ。
- オランダが先制したら:ボールを握って試合を殺しにくるのが彼らの勝ちパターンだ。ただし現在のオランダは2点目を取り切る確実性に欠けるため、1点差なら最後まで試合は生きている。慌てず、交代カードで攻撃の鮮度を上げて追う展開になる。
- 0-0のまま終盤へ:日本にとって悪くない展開だ。引き分けの勝点1は初戦として十分な戦果であり、一方で攻め疲れたオランダの最終ラインには隙が出る時間帯でもある。「勝点1を確保しながら3を狙う」二段構えが可能になる。
当日の観戦ポイント3つ
- 最初の25分をしのげるか。アルジェリア戦のオランダは序盤が最も鋭かった。ここを0で切り抜ければ、試合は日本のプランに近づく。
- デ・ヨングに前を向かせない。オランダの攻撃のリズムは彼から生まれる。日本の前線のプレスバックがどこまで効くかが焦点だ。
- 60分以降の交代策。攻め疲れたオランダに対し、日本のベンチがフレッシュなアタッカーを投入する時間帯が勝負どころになる。この大会の日本の「勝ちパターン」の試金石となる。
ランキング・個の能力で格上なのは間違いない。それでも「内容で勝って結果を落とす」オランダの現状は、日本が勝点1以上を持ち帰る現実的なシナリオを示している。直前のオランダを一言で表すなら「焦りを抱えた強豪」だ。個の能力もボールを握る力も世界トップクラスだが、主力の離脱で台所は苦しく、決定力という古典的な病が再発し、ホームで格下に敗れて警鐘が鳴っている——それが6月15日に日本の前に立つチームの実像である。
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